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2009.04.27

奇跡の治療法

『脳治療革命の朝(あした)』

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古本屋で目に留まりなんとなく買ってみた本、
難しい内容もありましたが、素晴らしい内容です。

事故や脳卒中などで脳機能障害を負い、ほとんど絶望的ともいえる患者を「脳低温療法」という治療法で奇跡的な回復を遂げた事例を紹介してある本です。

日大医学部付属板橋病院救命センターの林教授はこの治療法の第一人者であり、数多くの「脳死の一歩手前」という患者の命を救ってこられました。

「脳低温療法」?
ってよく知りませんでしたが、・・・

林教授は脳に損傷を受けた患者の脳組織温度が異常に高温になることに着目し、臨床での研究を重ねて、この療法を確立されました。
最近では、サッカーの元日本代表監督のオシム氏の「奇跡の生還」を可能にしたことでも注目を浴びています。

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クマの冬眠からもヒントを得たというこの療法、脳がダメージを受けるとそのストレスで体温が上がる。その時、血圧が低いと脳内の血液を十分に押し流すことができずに、熱が脳内に溜まり、異常なほどの高い温度となる。これによってさらに脳細胞が損傷を受けてしまうのを防止するために考えられました。

この脳低温療法とは、ただ単に氷枕で頭を冷やすというものではなく、血液は全身を循環しているので、冷水を還流させる細い管を内部に這わせた水冷ブランケットを用いて体全身を冷やします。そして冷却装置で水温管理をして、脳の温度を33~34℃程度に保ち、0.1~0.2℃単位での上げ下げを24時間体制でベッドサイドに寄り添って管理をおこなう。
さらに点滴や人工呼吸器の管理はもとより、患者に挿入した各種のカテーテルやセンサーつきのモニターから読みとるバイタルサイン(意識状態、血圧、心拍数、呼吸数、体温、尿量)をはじめ、心拍出量、肺動脈圧、頭蓋内圧、脳組織温度、鼓膜温、等々の72項目にもわたるデータを20分おきにチェックしていく。

 まさに気の遠くなるような作業です。

そして、この脳低温療法で難しいのが体温を下げることによって起こるさまざまな合併症との戦いです。
体を冷やすということは脳の神経細胞の死滅を防ぐのには役立ちますが、それとは逆に心停止をもたらす低カリウム血症が高率で生じたり、免疫力が低下して肺炎などのやっかいな感染症が起こったりすることです。

そのためにも、片時も患者から目を離すことなく、なにか少しでも異変が起こったときには先手先手を打ってさまざまな対処をしていく。
それらの繊細で根気のいる治療を何ヶ月にもわたって継続させていきます。

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本のなかでは実際に治療をおこなった方々の実名や写真をまじえた実例が詳しく紹介してあり、ただ淡々と治療内容を記してあるのではなく、患者自身がどういう人物であるか、どのような環境でどんな人生を歩んでこられたのか、また場面場面での医師や家族の心の動きまでも克明に記してあります。
看護師たちにおいても、これほどまでの専門的な管理をおこなうには高度な専門知識が必要とされ、その専門ナースとしての教育やチームワークのこと、そして心の葛藤までもが記されています。

そして成功例ばかりを紹介しているのではなく、死の淵から生還できたとしても重い後遺症が残り、過酷なリハビリテーションやほとんど寝たきりの状態となって家族による長く厳しい介護の日々なども綴られています。

しかしそこには、現実を受け止め、あらためて家族の愛に気付かされたり、今まで自分が生きてきた人生や生きる意味、その尊さについて考え、新しい「いのち」の発見があることを語っています。

「とにかく生物学的な命を救えばいいというのではない。
もし医師が意識のない植物状態の患者とのみ接し続けるならば、ただの代謝活動をしているだけの生物体でしかないが、ベッドサイドで患者の体をさすり、言葉をかけ、喜びや悲しみの感情をさらけ出してる空間のなかに医師が共に立った時、医師の目に映る患者の姿は全く違ったものになる。
そういう眼こそが患者を治そうとする努力を持続させる力になる。」

と林教授はおっしゃっています。

病や症状だけに目を向けるのではなく、「人間まるごと」として魂のレベルで接する姿勢は、最先端医療でありながら、同時にホリスティック医療でもある。
科学の進歩は素晴らしいものもありますが、そこには患者の懸命に生きようとする生命力と、それを支える医療チームや家族の愛など、それらをひっくるめた「人間力」というものがいかに大切であるかを感じることができました。

著者の言葉で、
 「生と死の境はどこにあるのか。
 生と死のどちらへ転ぶのを決めるのは、何なのか。」

とあるように、この脳低温治療法については賛否両論があり、脳死であった患者を無理矢理に命を長らえさせるなど倫理的な面での反対意見などもあります。
しかしこの本のなかで紹介されている新たな「いのち」を得た患者や家族の喜びは、決してこの治療法が間違ったものではないという証しなのでしょう。

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